特集 2001年8月号

「1つの山が交差点?交互通行のトンネル信号」

半年振りの特集です。

信号といえば、交差点や横断歩道にあるものがほとんど。
しかし、こんなところにある信号、ご存知ですか?

そこで、今回は埼玉県と山梨県の境にある荒川上流の村、大滝村のある信号を撮ってきました。今回は静岡県裾野市在住の常連、ビートルさんにご一緒していただきました。

宇都宮から足利・熊谷・秩父を抜けて国道140号を南西に向かって走らせると(大体宇都宮から4時間弱)、雁坂トンネル方向と三峰神社方向に分かれる三叉路があります。その三叉路を三峰神社方向に向かって左折し、4キロ程崖伝いの道を走ると、「駒ヶ根トンネル」という非常に細―いトンネルがあり、その入口に信号があります。

このトンネルを通れるのが、高さ3.1m×幅2.5mまでの車。たいていの乗用車や小型トラックなら十分通れるのですが…見た感じほんとにせまそうです。言うまでも無く、乗用車のすれ違いはNG。歩行者もこのトンネルは通行禁止です。

(歩行者は山腹にある遊歩道を使うことになっています。)

トンネル内部。

手掘りじゃないかと思えるくらいごつごつした壁面です。
天井に小さなナトリウム灯がぼんやり灯っています。
車の通りがなければ非常に静かなトンネルです。

このトンネルの中が三叉路になって、三峰神社方向と雁坂方向に分かれます。この画像は三峰神社側から撮ったものです。

三峰神社側からの車は、この三叉路を曲がる際、一時停止が義務つけられています。又、三峰側からの車は、この三叉路を左折できません。(雁坂側からの右折もできません。)

この交通規制に、後で説明する信号の動作の鍵がありそうです。

三峰側の坑口の先はダムを横切る(というよりダム上の)道路です。この道幅もトンネルとほぼ同じです。歩行者用の通路はありますが、狭く実際歩いた時、すれ違った車に何度もヒヤリとさせられました。

このようなトンネルでは、交互通行にしないと非常に危険です。そこで、トンネルの入口にそれぞれ信号を設置しています。
このトンネル周りにあった案内板です。信号の位置をマーキングしてみました。

@秩父側:

ここは日本信号製450mm樹脂灯器が2基、250mm灯器が1基あります。

この灯器そのものについては「交通信號機図鑑」横-日信66をご覧ください。

A雁坂側

こちらは日信製250mm丸型外庇灯器の横型・縦型が1灯ずつあります。道路の右側に設置しています。

→雁坂側にある感知器1つ

信号灯器から30メートル程トンネル側に車両用感知器があります。警交仕規49号ドップラ式感知器(平成9年10月:日本信号製)がありました。

この感知器、秩父側からの車の通過量を測り、完全に無くなったところで雁坂側の信号を青にするものと思われます。

←B三峰神社側

こちらも、雁坂側と同じで、日信製250mm丸型外庇灯器の横型・縦型が1灯ずつありますが、雁坂側と違い、道路の左側に設置しています。

C三峰側抗口そば 二瀬ダム管理事務所

このトンネルのある山のそばに、二瀬ダムがありますが、その事務所の駐車場用/二瀬ダムの駐車場用に信号があります。1日に恐らく十数台位しか出入りのなさそうな所ですが…。

ウサギの耳のように灯器の上に250mm矢印がついています。この形、一般公道では歩道橋でごくごく稀にあるものです。

この信号は@ABの信号の青の合間をぬって約15秒くらい矢印が点灯します。
サイクルについては後で触れたいと思います。しかし海沿いならよく分かることですが、川沿いなのにこんなに錆び錆びになるものですか。

この信号は4つとも赤の時間が3〜4分くらいあるため、運転者のイライラを軽減するために@〜Bの信号には車両用の待ち時間表示器(LED式)が設置されています。この表示器、テレビに出てくるサッカーの試合の残り時間の表示に似ていて、赤になると赤いワッカが表示されて、時間の経過と合わせてワッカが反時計回りに減ってきます。ワッカが無くなったところで青になります。
さらに、「トンネル用信号により待ち時間が長くなっています」という断り書きもあります。

サイクルはどうなっているのか分析しましょう。

ます、トンネル内で交互通行が成り立つことが前提になります。

そこで私の分析。 同行したビートル氏の分析。
@秩父
A雁坂
B三峯
C事務所

@秩父
A雁坂
B三峯
C事務所

それぞれの信号はおろか道路が見渡せないため、トンネルから聞こえる車の音しか手がかりがありませんでした。本当は携帯電話かトランシーバーを駆使すればいいのですが、トランシーバーなど持っておらず、携帯の電波も届きにくいところだったのが残念です。

最初、左のように@〜Cが全く別動作をするものと思っていました。
しかし、ビートル氏の解析によると三峰側から進入した場合、トンネル内の合流点では一旦停止義務があり、
更に秩父方面への右折のみなので、三峰と雁坂の信号は同現示ではないかということです。
この分析には私も納得させられました。

信号はどのようにつながっているの?

まず制御機ですが、日信製A型プログラム「多段式」制御機(警交仕規45号)が使われていました。制御機の写真を撮り忘れてしまい、紹介できないのが残念です。尚、制御機は秩父側坑口の450mm灯器(@の写真の灯器)ポール下にあります。そこから三峯側にダムをまたいで、雁坂側に山の側面を伝ってケーブルを渡しています。

三峰側の灯器に電柱を使ってケーブルを渡しています。電柱には中継箱があり、中継箱をたどることでケーブルが分かります。一方、雁坂側には山の側面にパイプの中に通したケーブルがあります。 この中継箱にプレートがついていました。
名称は「送電接続箱」で、日本信号製です。
C管理所の灯器のケーブルは、雁坂側信号へのケーブルの途中から出したケーブルの途中から出ていました。 山腹の遊歩道の下に、雁坂側信号のケーブルがありました。勿論、ところどころにに中継箱がありました。基本的にスチールパイプにケーブルを通していますが、地中に入る部分はプラスチック製でした。

結論。

今回の取材を通して、トンネルを挟んで、ダムを挟んでのこの信号に、多くの工夫と努力があったのではないかと改めて感心させられました。都市部の渋滞削減向けとは違った、信号というものの原点に立って考えさせられたと思います。

確かに山の中は車の通行量が少ないです。しかもこの道路はかつて埼玉県と山梨県を結ぶ国道140号線でしたが、新ルートができたこともあります。
しかし、通りが少ないからといって信号を無視しないで欲しいです。この取材中にも、待ち時間表示の目盛が3つも残っているのに、発進してしまう車を何度も見かけました。そんなに急ぐなら新ルートを使えばいいのに。

確かに信号の待ち時間は確かに長いです。しかし、まわりを見まわして下さい。夏は新緑、秋は紅葉などといった四季折々の風景が楽しめます。ここの信号待ちの時間は、そんな時間を与えてくれるのです。

ダム通路からの眺め。夏に緑を眺めて気分をリフレッシュするのもよし、
秋に紅葉を眺めて大自然の芸術を堪能するのもよし。ぜひ遊びに行ってみて下さい。

交通:関越道花園ICからR140を甲府方向へ約1時間45分。
大滝村に入って「三峰神社」方向の看板のある信号を左折。
又は中央道一宮御坂ICから石和経由でR140に入り、雁坂トンネル(普通車¥710)を経て埼玉県境を
超えてから最初の信号を右折。